年に何回かやってくるこの儀式。
この儀式のたびに、必ず毎回、神話が生まれる。
そして、時々、英雄が生まれたり、新たな犠牲者が出たりもする。
今回のは、潔い交代、だ。
私の体から血を抜くのには、えらい時間がかかるし技術が必要なんだなぁ。
なにせ、血管が見えることが稀だから。
そして、針を刺して血が出ないことも多いし、血管が針を嫌って逃げたり、さらに血が出ても途中で止まることも多々あるからだ。
だから、私の方にもある覚悟がある。
それは、3回まで失敗してもいいよ、というもの。もちろん、精神面へのダメージは大きくなるけれど。
そして、今日も、新たな神話が作られることになる。
こちらの準備としては、両腕を見られることを想定して、シャツの腕のボタンは両方外して採血室に入った。
看1:(看護師がアルコールの脱脂綿が入っている小袋の封を切った)
なか:あ、ごめんなさい、アルコールがダメで
看1:あ、私も最初に確認しなかったから (と自分の性だと言ってくる)
最近の看護師は優しいなぁ、と思った。
看1:いつもこうなの(この血管)。
なか:いつもですよ。血は流れているけれど。
看1:それは私も知っているわ。でも、ここを流れているのが見えるわよ、私には(と強気の姿勢)
と言いつつも、反対側の腕も見たいと言う。
なか:いつも思うんだけど、私の手が、看護師さんの胸のところに来るけれど、これは興奮させて血管を浮かせる作戦だよね?
看1:なんでわかったの。その通りよ。
冗談が通じて楽しい。
看1:ここ、ここからいくよ。ここも見えないけど、ここに流れているのわかるから。
なか:(無言で目をそらせた)
看1:(針を刺して)あれ、血管がない、あれ、あれ、あれ(と何度も抜き差し)
なか:ま、想定内だから心配しないでくださいね。(私も優しいし、ちょっとだけ余裕もある)
なか:でも、具合が悪くならなければいいんだけどね。
看1:そうだよねー、ごめんね。
なか:ここ、やめましょう。
看1:そうだね。抜くね、ごめんね。
この後で、いきなりどっかに行ってしまった。
なか:(助手に向かって)これで若い看護師だとトラウマになる人もいてね。気を使いますよ。
助手:そうだよね。
そうしたら、似たような体格の別の看護師さんを連れてきた。
どうやら選手交代のようだ。
看1:別な人連れてきたからね。
看2:出かけようとしていたのに捕まっちゃったわ。
看1:そうそう、ここぞという人(看2)に出会ったから連れてきちゃった。
看2:どれどれ。うんわかった。同じところに刺すね。
そう言って、同じところに刺して。。。
看2:ほら見つかった。血が出ているからね。
本当に、勢いよく検査管に吸い込まれていく。
なか:一発で次の看護師さん呼んでくるなんて只者じゃないよね看護師さん(看1)。
看1:(顔は笑っているけれど、目線がしっかりと看2の手元を見ている)
こういう看護師(看1)が将来、もっと凄い看護師になるんだろうな、というプロさ加減を見せてくれたと思ったよ。頑張ってね。
看2:はい、終わりましたよ。
と、看1に何を言うわけでもなく、さっさと終わらせて部屋を出て行った。
あー、いいものを見せてもらったわ。
私もこんな人たちのような仕事の仕方をしたいな、と思いました。